パシフィッククレストトレイル旅日記 PCT#12

PCT/パシフィッククレストトレイル
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アメリカ三大トレイルのひとつ、パシフィッククレストトレイル(通称:PCT)を歩いて旅したやまゴリラの旅日記。

PCTはメキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走する総距離4265kmのロングトレイル。スルーハイク(全行程をを1シーズンで歩き切ること)にはおおよそ4〜6ヶ月を要する。

衣食住のすべてをバックパックに詰め込み、アメリカの大地を放浪する旅の中でやまゴリラはなにを見て、そしてなにを感じたのか…。

そのすべてを綴った旅日記。

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PCT シエラネバダ編 #3

Day50-Day59/Miles 830.5-1048.4

挫折と決意

ターザンとウォーターボーイと別れた僕はストレッチと行動を共にしている。

彼と行動することにしてゼロデイの予定がなくなり、8日→15日へと行程が延びたが、無理なら途中で別れようと考え気楽に考えていた。

彼は24歳、高身長で脚も長いので非常に歩くペースが早い。

しかし、休憩やランチのタイミング、1日のマイル数が僕と類似しているので一緒に行動していてストレスがない。

お昼は湖のほとりでとることが多いので、2人で水浴びを楽しんでいる。

ストレッチは1日1回必ず湖に飛び込む。ちなみに彼はビーガン、食料選びが大変そうだ。

1日平均25マイル、快調に無理なく足を進め、途中彼の思い出の地でもあるヨセミテバレーに寄ったりもして、しっかり歩きながらも旅を楽しんだ。

この15日間、感じたことは食べていればどうにかなる。

バカみたいな意見だが、とりあえずカロリーを摂っていれば体は動く。

精神面を除いては。

さすがPCTのハイライト、シエラネバダ山脈。息を飲む絶景が続く。

異変があったのは12日目。

ここからの3日間は平均28マイルは歩かなければならない。

いや、歩かなければならない訳ではないが最終日に早く街に着きたいのでマイル数を稼ぎたいのだ。

この日は日本のトレイルを彷彿とさせるような急登や岩場、湿気じみた環境が続く。

なんとなくテンションが上がらず、足元に気を遣いながらのハイキングになりペースが上がらない。

午前中を終えた段階でまだ20マイル以上あるではないか。

今まで経験のない行程であること、足を進めたくなるようなワクワクする環境でないこと、体も絶好調な訳はない。

自然と自分の中で歩けない言い訳を作ってしまっていた。

そんなことが積み重なって精神的に少し萎えてしまっていた。

気持ちがナーバスになると体も全然ついてこない。全てにおいてマイナスだ。

ランチを取ろうと約束していた場所にも辿り着けず、この段階でストレッチと別れ、先に行ってもらうことが脳裏に浮かんだ。

足元には岩が転がり、時折コケも目にする日本のようなトレイル。

とは言っても先を行く彼に会わないとその提案もできない。

『もう歩きたくない〜』なんて弱音を自分の中で散々吐きながらも、嫌々歩いた。仕方なく。

時刻は16:00頃だろうか。

『Hi, Goat!!』

そう聞こえてきたときはスッと体と気持ちが楽になった。

ストレッチは湖でお決まりの水浴びをし、軽い休憩をとっていたようだ。

『Goatも入る?』と提案されたが、普通に寒いよ。

シエラエリアでは1日1回湖にたどり着く。つまり体をとても綺麗に保てるのだ。

『なぁなぁストレッチ。オレ結構限界で君についていけないから先にいって!またいつか追いつくからさ。』

一緒に歩いているといっても、ハイカーはあくまで個人。

各々のペースで、各々が思うように旅をすることが正解だと思っていた自分にとって、ここで彼と別れることも仕方がないと考えていた。

しかし、彼からは思いもよらぬ返事が返ってきた。

『いや、それはない。Goatがついてこれないなら今日は早めにキャンプしよう。』

ターザンたちと歩いていた時は、個人は個人。

自分たちの好きなように行動していたので、テントサイトで一緒にならないことも多々あった。

ただ、予定よりも早く切り上げたところで明日歩かなければならない距離が増えるだけ。

それはストレッチにとってもプラスでないので、再度提案。

『君の街での時間が減るだけだし、明日しっかり歩けるかも分からない。僕はどうにかするから先にいってくれ!』

しかし、彼は全然納得しない。

『とりあえずそれはないから。そんな大きな問題じゃないよ。行けるとこまで行こう。』

正直、先に行ってくれた方が楽なのだが、彼にここまで言われたら歩かない訳にはいかない。

なぜそこまで一緒にいることにこだわったのだろうか。

それは分からないが、ただそう言ってくれたことが嬉しかった。

彼の言葉や気持ちに元気をもらい必死で前へ進んだ。

そして時刻は19:30頃。

予定していた29マイルまでは届かなかったが、なんとか27マイル歩き切り、テントサイトに倒れ込んだ。

いつもより多めにディナーをとり、この日は念入りにストレッチ。(ややこしいがここでのストレッチはご存じのストレッチ)

『ごめんよストレッチ。明日は絶対歩き切るから。』

そう心に誓って深い眠りについた。

テントはシックスムーンデザインズのルナーソロを使用していた。

バディーとの約束

不安を抱きながら迎えた翌日、この日は幸いにアメリカらしい歩きやすいフラットなトレイル。

そして個人的に大好きな景色が続く。

ロングトレイルは景色でなく出会いだとよく聞くが、好みの景色はテンションを上げてくれる一つの大切な材料。

この日はストレッチの期待に応えたいと気持ちをしっかり持っていたので、体も自然と前に進む。

29マイルを歩かなければならなかったが、前日とは見違えるほどしっかり歩くことができ、『これはいける』と自信を取り戻していた。

前日までとは打って変わって岩稜帯が続く。

そして12マイル程進んだところだろうか。

木々の奥からハイカーたちの歓声が聞こえてきた。

トレイルマジックだ。

20人ほどのハイカーがそこで腰を落としており、ホットドックにドーナツ、チップスにタコス、ビールにスイカとかなり大規模なマジック。

このボロボロのタイミングで、このトレイルマジック。

『もうこれは神様からの贈り物だ。』

そんなことを思い、食事やビール、ハイカーたちとの交流を楽しんだ。

とんでもない規模のトレイルマジック。PCTハイカーはこの瞬間を待ち望んでいる。

エンジェルからの恵みを思う存分頂き、体も気持ちも更に前向きに。

この日は予定通り歩き切れると確信した。

しかし、たった1マイル進んだところで異変は起こった。

足元がおぼつかず、何もないところでスリップして尻もちをついてしまった。

皆さんも夜の繁華街で目にしたことがあるだろう。

そう、ただの酔っ払いだ。

ここまでの13日間の疲労が蓄積していたことに加え、僕はシンプルにアルコールに強くない。

忘れてた。

汗を書いてアルコールをとばそう。

そう思い前に進もうとするが、10歩ももたない。

なす術なくトレイルのそばに寝込んでいると、

『おいおい、何が起こったんだ?まだ1マイルだそ?』

と、聞き慣れた友人のGavinの声が聞こえてきた。

彼とは一緒に歩いたことはないが、よく顔を合わせるハイカー。

『いや、酔っ払って動けないんだ。』

そう答えると彼は爆笑して、

『Goat、お前最高だよ!!!笑』

と言って僕の写真を撮っていた。

フラフラで頭も回らないが、必死に意識を保ち彼に伝言を託した。

『ストレッチにこう伝えてくれ。いまオレは酔っ払って動けない。でも必ず今日中に君に追いつく。絶対に。』

時刻は15:00頃で残り16マイル、そしてこの段階では動けない。

今考えると酔っ払いがカッコつけてなにゆうとんねん!どっからその自信が出てくんねん!

と思わずにはいれない言葉だ。

体も気持ちも絶好調。

しかし酔っ払って歩けない。

焦る気持ちを抑えて1時間程仮眠をとった。

この日のトレイルはまだ残雪が残っていた。コントラストが美しい。

なんとか歩けるようになってからは、それはもう全力で、そして無心で歩いた。

アップダウンもあり、しんどくない訳ではないがそんなの関係ない。

約束は約束。

絶対に彼を裏切らない。

昨日、自分に誓ったではないか。

何時になろうと絶対に辿り着いてやると。

酔っ払ってただけのやつが何をゆうとんねんと自分に突っ込みながら歩いた。

幸い、そこからのトレイルは難しいものではなく、なんとか21:00を過ぎた頃には彼の元へ辿り着くことが出来た。

この日ついに1000マイルを越えた。

数日前、ストレッチからこんな質問をされた。

『辛い時、自分で自分を奮い立たせるか、人から元気を貰うか、どっちのタイプ?』

そんな事深く考えたことはなかったので、その時は『ん〜場合によるかな。』なんて回答をした。

それがこんなに早く答え合わせをする時がくるなんて。

トレイルでの出来事、全てが何かに繋がってる気がするな。

分かんないけど。

まだ1000マイルだしね。

ターザン、またどこかで会おう。

コメント

  1. yumi より:

    歩きながら、葛藤、葛藤ですよね。。でもそれが好きで歩き続けている気がします。

    • やまゴリラ diddypyo より:

      いつもコメントありがとうございます!
      葛藤してるほうが考える事多いので好きです!何も考えずに歩いてると1日長いので。笑

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