アメリカ三大トレイルのひとつ、パシフィッククレストトレイル(通称:PCT)を歩いて旅したやまゴリラの旅日記。
PCTはメキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走する総距離4265kmのロングトレイル。スルーハイク(全行程をを1シーズンで歩き切ること)にはおおよそ4〜6ヶ月を要する。
衣食住のすべてをバックパックに詰め込み、アメリカの大地を放浪する旅の中でやまゴリラはなにを見て、そしてなにを感じたのか…。
そのすべてを綴った旅日記。
PCT オレゴン編
Day94-Day105/Miles 2028.1-2295.9
ハイカーたちの同窓会!? “PCT Trail Days”
『この深々とした山々がカナダ国境に繋がっているのか』
そんなキザな事を考えながら、コロンビアリバーを挟んだ先に見える、ワシントン州の景色を眺めていた。
ワシントン州はPCT最後の500マイル程のセクション。
日数にすると約3週間。
旅の終わりがすぐそこまで迫っている。


オレゴン州最後のトレイルを、僕は同窓会へ行くようなそんな気持ちで歩いていた。
ちょっぴりの不安と大きな楽しみ。
いまから降り立つCascade Rocksという街で、PCT DAYSと呼ばれるハイカーのお祭りが2日間に渡って開催されるのだ。
年に1回開催されるこのイベントは、各アウトドアメーカーがブースを出店し、ハイカーはもちろん地元の方々まで集う大きなお祭り。
オレゴン州の山火事で各地へ散っていたハイカーや後続を歩くハイカーも、このイベントに参加するためこの街へやって来ており、街はハイカーで大渋滞していた。
このところ1人で旅をしていた僕は、これまで出会った仲間たちと再会できることを心待ちにしていた。

街へ降り立つとさっそく、
『Hey!! Brother!!』
という声が聞こえてきた。
声の主に目をやると、ボタン全開のアロハシャツにペイズリー柄のネクタイ、頭にバンダナを巻いた、ハイカートラッシュを体現したような男が歩み寄ってきた。
『こんなコテコテの知り合いいたっけ?』
そう思いながら近づくと、Kennedy Medowsというシエラの入り口の街で出会ったA.K.Aではないか。
元々、ハイカートラッシュまっしぐら!な彼であったが、さらに磨きがかかったように見える。
それだけ時間が経ったんだなぁと実感。
熱いハグをし、これまでの近況を軽く話した後、彼に案内されてキャンプ場へ向かった。
想像はしていたが、キャンプ場はハイカーのテントで埋め尽くされており、今夜は眠れないことを覚悟した。

受付を済ませ、なんとかテントを張る場所を確保し、先に到着していた仲間の元へ向かうと、久しい顔が集まっていた。
旅が始まった頃に行動を共にしていたトレイルファミリーのメンバー、シエラを一緒に歩いたバディ、旅の中で幾度となく顔を合わせてきた大好きなハイカーたち。
“同窓会”という言葉がぴったりの面々だ。
英語が堪能でなく深いコミュニケーションがとれてない僕なんて忘れられてる?集まっても疎外感を感じるだけでは?なんて不安も少しはあった。

けれどそんな不安は彼らの笑顔とハグで一瞬にして吹き飛んでいった。
彼らからの情報によると、今夜はブリュワリーで前夜祭があるそう。
騒がしい場所が好きでない僕はあまり乗り気ではなかったが、ハイカーたちが集合するこの街におそらく静粛な場所なんて存在しない。
ブリュワリーに到着するとバンドのライブが始まっており、野外ステージはクラブ状態。
各々が自分を開放して、ビール片手に思うがままに踊り狂っていた。
僕はというと日本でクラブも行ったこともないし、ダンスの経験なんて体育祭のフォークダンスくらい。
けれどここで見てるだけなんてありえないし、彼らと一瞬一瞬を共に楽しみたい。
中途半端に首振ってるだけの方が恥ずかしい!と自分に言い聞かせ、見よう見まねで皆の輪に飛び込んだ。
下手くそでぎこちないダンスだったとは思うが、外人たちが野外ステージで踊りまくるという、海外ドラマのワンシーンのような中に自分がいる事に少し浮かれてしまった。

ライブも僕の気持ちも盛り上がり、追加のビールを買いに行こうと、ふと周りを見渡すと仲間たちの楽しそうな笑顔が目に飛び込んできた。
そんな彼らの笑顔を見ていると胸をグッと掴まれるような、今までにない感覚に陥った。
『また会えるかな』
『次はどこで会えるんだろう』
そんなことを思いながら別れることができるのもあと少し。
このイベントが終わった後、もう二度と会えないハイカーも間違いなくいるだろう。
旅がクライマックスに向かっていることを、心で実感した瞬間だった。
その日の夜は案の定、夜中までハイカーたちの騒ぐ声がテント場に響き渡っていたが、『うるさい』だなんて到底思えなかった。

ひとりだけど独りじゃない
イベント当日、各メーカーのブースをチラッと覗いた後、仲間たちとテント場でだらだらと時間を過ごした。
正直、イベント自体はあまり興味がない。
おそらく大半のハイカーたちがそうなのではないだろうか?
4月〜5月にかけて、多くのハイカーが旅を始め、各々ペースが異なり、距離も離れる中で再会できるこのチャンス。
このタイミングでこのような機会を作ってくれていることに感謝しかないよ。

僕はこの集団が一気に北上し、トレイルが混雑をすることを予想して、2日目の午前中で切り上げてトレイルへ戻ることにした。
仲間にトレイル戻るね〜と伝えると、
『なんでこのタイミング!?明日でええやん!』
と言われたが、
『準備もできてるし混雑するの嫌やねん!』
と、トレイルへ戻る意思が固いことを伝えた。
『わかった。なら今日は10マイルだけ歩いていいよ。』
なんの指示やねん!と思っていたら続けて、
『ここまできたら一緒にゴールするぞ!9/10にカナダ国境な!』
と僕に伝えた。
正直、こんなことを言われて嬉しくない訳がない。
一緒に歩いてなくても、同じトレイルを旅しているだけで、しっかり”仲間”として認識してくれてるんだなと。
各々自由が尊重されている、こんな心地の良い仲間の形はこれまで経験したことがない。
かけがえのない仲間に囲まれながらも、自由気ままに旅ができている僕はとても幸せだ。
大好きな仲間たちと別れのハグをし、僕は会場をあとにした。


さて、9/10ゴールね。
ん、まてよ。
よくよく考えると僕がざっくり思っていたより5日も早いやん…!
僕は急ぎ足でワシントンの州境を越えて北へと足を進めた。

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