アメリカ三大トレイルのひとつ、パシフィッククレストトレイル(通称:PCT)を歩いて旅したやまゴリラの旅日記。
PCTはメキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走する総距離4265kmのロングトレイル。スルーハイク(全行程をを1シーズンで歩き切ること)にはおおよそ4〜6ヶ月を要する。
衣食住のすべてをバックパックに詰め込み、アメリカの大地を放浪する旅の中でやまゴリラはなにを見て、そしてなにを感じたのか…。
そのすべてを綴った旅日記。
PCT ワシントン編 #1
Day106-Day118/Miles 2319.5-2591.1
打ち砕かれたぼくたちの夢
カナダ国境まで200マイルをきったLeavenworthという、ヨーロッパを彷彿とさせるようなこの街で、6人のハイカーとモーテルをシェアしていた。
彼らの1人とトレイル上で何度か顔を合わせ、『次の街でモーテルをシェアするからおいでよ』と誘ってもらっていた。
ワシントン州に入ってから、『いまさら色んなハイカーと仲良くなっても仕方ないよな』みたいな気持ちになっており、出会いを大切にできていない自分がいた。
きっと、『いままで仲良くなったみんながいる!』みたいなおごりもあったのだと思う。
そんな風に旅をしているともちろん何も起こらず、ただただ歩いているだけの日が続く。
1日の楽しみがダウンロードしていたラジオくらいしかない。
旅の輪郭を描くのは自分自身であるが、それらを色づけてくれるのは間違いなく他のハイカーたち。
そんな大切なものを疎かにするのはもったいないと改めて感じ、積極的にコミュニケーションをとっていた。
するとすぐにこういった出会いがあるのもロングトレイルのおもしろいところか。


そんな僕たちの元に信じられないようなニュースが飛び込んできた。
PCTのカナダ国境から約20マイルが山火事で閉鎖されたとのことだ。
山火事の大半が人間が原因と言われている中、落雷によっての火災。
ゴールすることが最重要でないとされながらも、多くのハイカーたちにとって特別な場所であることは言うまでもない。
もちろん僕も例外ではない。
しかし、知らせを聞いた直後は、
『ターミナスなんてただの石像さ』
『山火事でのトレイル閉鎖なんてPCTにはつきもの。それがたまたまノーザンターミナス付近だっただけの話。』
なんて冷静を装って強がっていた。
しかし、今思えばどうしようもないこの状況を納得させるため、こう自分に言い聞かせていたに違いない。
メキシコ国境から健気に歩みを進め、かれこれ2500マイル(約4000km)。
ノーザンターミナスにたどり着く日を思い描き、すこしの体の痛みには目をつむり、どんな日も一歩ずつ北へ進んできた。
日常からは考えられないような距離を旅してきて、用意されていた結末がこれ?
体も心もなんの問題もなく、まだ1000マイルでも2000マイルでも歩いていける。
なぜこのタイミング?
なぜこんなピンポイントで?
こんな残酷な結末を用意していたPCTを嫌いになりそうだった。
“ロングトレイルなんてクソや”と。

旅の終わりになにを見る
気持ちの整理がつかないままトレイルに戻ったが、モチベーションがまるで上がらない。
岩にぼけーっと2時間ほど座っていたり、ダラダラ歩いてペースもまったく上がらない。
『歩いても一緒やん。アホみたい。』
そんな風に思いながらトレイルをふらふら歩く僕の心の中は、マイナスの思考でいっぱいだった。
ここで旅を終わらせてやろうかと思うくらいに。

『終わりよければ全てよし』
誰もが聞いたことのあるこの言葉、普段はあまり共感しないが、この時ばかりはゴールや目標の価値を身をもって実感した。
言うまでもなく、一番大切なのは旅の過程。
これは疑いの余地もないと思っている。
ノーザンターミナスにたどり着けないからといって、これまでの思い出が霞むことはない。
でもゴールも重要。
ターミナスで写真をとって見せびらかしたい訳ではないが、なんとなく気持ちがすっきりしない。
『一番大切なのはなにか』
そんなの決めなくてもいいでしょ?
どっちも大切なんだよ。

とは言っても自然は僕たちの都合を考慮してくれない。
僕は選択をし、前に進んでいかなくてはならない。
現実的に考えて選択肢は2つ。
・PCTをいけるとこまで歩く
・ロードを歩きカナダ国境を目指す
これまでメキシコ国境からPCTを旅してきたわけで、そこにこだわりたい気持ちはもちろん強い。
けれどトレイル上の何もない場所にある”CLOSE”のサインでゴール。
そこからいまいるハイウェイまで約40マイルを引き返して歩いてくるなんて、あまりに後味が悪すぎない?
そして僕は、PCTを歩くと決めた時のことを少し思い出してみた。
PCTを歩くきっかけのひとつになったのが”Into The Wild”という映画。
カリフォルニアの自宅から全てを投げ捨てて、アラスカまで歩いて旅をする実話を元に作られたストーリーなのだが、一瞬PCTを歩くシーンが出てくる。
彼の旅に強烈なインスピレーションを受けて、『自分もこんな旅がしてみたい!』そんな風に思ったのが全ての始まり。
その当時は”PCTを歩き切る”ではなく、”アメリカを歩いて縦断する”ということにロマンを感じていたはず。
だったら答えはひとつ。
ロードを歩いてカナダ国境を目指す。
トレイルだろうがロードだろうが旅は旅。
自分でリルートを作って何が悪い、むしろガイドブックにはないそんな旅のほうが、旅らしくていいじゃないか。
歩き終えた後、納得できるかなんて分からない。
今はただ、自分の選択を信じて前に進むしかない。それしかできない。
旅の終わりはもうすぐそこまで迫っている。

コメント
胸にしみタヨ。。
そして、目頭熱くなりました。
なんで?笑
葛藤から前に進んでく…文章の中だけにおさまらない沢山の気持ちや時間を、勝手に思って。。
人はちっぽけで、どうしようも無い事あるけど、人の思いは、どんな大きいな壁をも超えてくんだなって。。
引き続き、応援してるねぇ〜🦍🔥