パシフィッククレストトレイル旅日記 PCT#18

PCT/パシフィッククレストトレイル
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アメリカ三大トレイルのひとつ、パシフィッククレストトレイル(通称:PCT)を歩いて旅したやまゴリラの旅日記。

PCTはメキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走する総距離4265kmのロングトレイル。スルーハイク(全行程をを1シーズンで歩き切ること)にはおおよそ4〜6ヶ月を要する。

衣食住のすべてをバックパックに詰め込み、アメリカの大地を放浪する旅の中でやまゴリラはなにを見て、そしてなにを感じたのか…。

そのすべてを綴った旅日記。

前回の記事はこちら
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PCT ワシントン編 #2

Day119-Day122/Miles 2591.9-Canadian Border

さよならパシフィッククレストトレイル

カナダ国境までロードを歩くと決めた翌日、僕は街のレンジャーステーションにいた。

ロードといっても車通りの多いハイウェイを歩くのではなく、ダートロードや田舎道を繋いで歩きたかったので情報を仕入れていた。

カナダ国境付近のこのエリアでは山火事が至る所で発生しており、その影響も考慮しながら旅路を組んでいかなくてはならない。

幸い、僕が検討していた道は今のところ問題なく開通しているようで一安心。

しかし、前日に街全体が煙で覆われていたので、旅が終わるまで油断はできなさそうだ。

西部開拓時代を彷彿とさせるWinthropの街並み。
このPCTサインともお別れだ。

そして迎えた出発の時。

これまで思い描いていたゴールやプランは目の前から突然なくなり、正直、自分で作ったこの選択が正しいか確信は持てていなかった。

しかし、”PCT”という確固たる枠組みから外れ、なんの情報も保証もないこの旅路を進んでいくことにワクワクしている自分がいた。

自信を持って前に進んでいこうじゃないか。

さらばWinthrop。そしてPCT。

歩き出して3マイルほどは舗装路を難なく進んでいたが、ここで難関が待ち受けていた。

地図通りに道を辿った先にゴルフ場があるではないか。

『まさかゴルフ場を突っ切るのか…?』

信じられないが何度確認しても、ゴルフ場内を通過しなければ先へは進めない。

『どうせ側道みたいなところがあってそこを通るんだろう。』

そう思っていたが、そんなものはどこを探しても見当たらない。

おじさま達がプレーをするコースをまっぷたつに横切って行かないと、前方に見えるダートロードに辿り着けない。

まぁ注意されたら別の方法を考えよう。

『Good Shot!!』

と気分よくプレーをするおじさまの邪魔にならないよう、駆け足で通過。

なんとかゴルフ場を後にすることができた。

彼らには僕の姿がどう映っていたのか気になるところだ。

こんな車の前で写真を撮りたくなるのは映画”Into the wild”の影響だろう。
アメリカの田舎ではしばしばこんな謎の施設に遭遇する。

さて、ゴルフ場を通過したところで、歩みを進める道が舗装路からダートロードに変化してきた。

ワシントン州なので木々が茂る緑の景色をイメージしていたが、思っていたよりもずいぶん乾燥した景色だ。

少し内陸に入るだけで随分と雰囲気が変わるんだな。

個人的に好みの景色なのだが、水の心配が頭をよぎる。

地図を見ると川の側を何度か通過するようだが、そこで水が取れるかも分からないので、常に4〜5Lの水を担いでいた。

やっぱり情報がなかった昔の旅人はすごいな。

ダートロードが続く。森の中を歩いているより”旅してるな”って感じる。

1日目はちょうどいい所に無料のキャンプ場があったのでそこに宿泊。

簡易トイレがあるだけのスポットなのだが、フラットな場所を確保できるだけで睡眠の快適さが段違いだ。

この日はスノーモービル用のフォレストロードを通り、人里離れた場所にあるConconullyという街を通過する予定。

前日はダートロードなだけあり、アップダウンも多少あったが、この日はおおむねフラット。

順調に足を進めていた中、前方に黒い物体を発見した。

『なんだろう?焦げた木かな?』

実際、焦げた木を動物やハイカーに見間違えることはよくあったのでそのパターンかと思っていた。

しかし、近づくと立ち上がったではないか…!

なにかは分からないがとにかくでかい。

トレッキングポールで音を鳴らしても微動だにしない。

…牛だ。

放牧?放山?された牛だ。

あまりにも飼い方が雑だな〜なんて思いながら彼らに近づくも、逃げる様子もそぶりもない。

狭いダートロードだったので通過するのを躊躇したが、意を決してなんとか切り抜けた。

何もしてこないだろうと思っていても、あのでかい動物の側を通るのはかなり恐ろしい。

迂回路もないので引き返す訳にいかず、

『もう牛は勘弁してくれよ〜。』

襲いかかってはこないだろうが近くで見るとなかなかの迫力だ。

なんて思っていたが、この日だけでも20〜30頭近くの牛を見た。

その後も乗用車が走れないようなガタついたダートロードを進む。

ハイカーなんて当然おらず、仮にここで倒れたら誰も見つけてくれないだろうな…なんて思いながら北へ進む。

カナダ国境まで30〜40マイルまで近づき、やがて舗装路へ入り、人里を通過するようになってきた。

僕と牛だけだった世界から抜け出し、乗用車とすれ違うことも出てきて少し安心。

目の前には、大自然と年代ものの人工物が混ざり合う景色が広がる。

ここまで景色や世界観を楽しめるロード歩きなんてなかなか経験できないと思う。

まさに”into the wild”の世界観と言ったところか。

PCTからは外れているが思い出に残っている景色のひとつ。

ぼくだけの物語

いよいよ明日にはカナダ国境へ到着しそうだ。

となると、その後街へ帰ることも考慮しながら動いていかなくてはならない。

国境まで残り25マイル地点、またもや無料のキャンプ場を発見した。

しかも湖に面していて水も取り放題だ。

『あぁ、ここで泊まりたい…』

現在時刻は午後5時。

歩き終えるには早すぎるし、明日のことを考えると少しでも先に進んでおきたい。

ただ人里に入っているので寝床確保に苦戦することも予想される。

そこでGoogleマップで調べてみると10マイル先にも無料キャンプ場があるではないか。

しかし、そこまで歩くとなると午後8時は過ぎてしまうだろう。

近頃は日の入りが早くなっており、暗闇の中、路側帯のないロードを歩くのは気がひける。

とりあえず水を確保し、考えながら休息をとる。

『…』

『…』

『…よし、とりあえずいってみよう!』

そう決断した僕は再び歩き出した。

しかし、この悩みが全くの無駄だったことをこの時の僕は知らなかった。

なんとも遊び心のあるバス停だ。

気持ちを入れ直し30秒ほど歩き出したところで、イヤホン越しに声が聞こえてきた。

『お〜い!君はスルーハイカーかね?』

『…はい、そうです!』

『冷たいドリンクがあるので飲んでいかないかい?』

『もちろんお世話になります!!!』

でもなんでこんなところでエンジェルをしているんだろう?

そんな疑問を持ちながら話をしていると、彼らはPNT (Pacific Northwest Trail、パシフィックノースウエスト) のハイカーをサポートしているとのことだった。

モンタナからシアトルまで続くPNTがこの近くを通っているそうだ。

『PCTハイカーに会ったのは初めてだよ。』

『普通はこの道通らないですからね〜。』

この日はカリフォルニアから彼の友人夫婦が遊びに来ており、夜はパーティーをする予定だそうだ。

『Goat、お腹は減っているかい?』

『も、もちろん…』

『よかったら一緒にディナーをとらな…』

『喜んで!!!』

こうして散々悩んだキャンプ地、先ほどのキャンプ場に決定した。

アメリカの家庭にはこんなBBQグリルが常備されているそうだ。

今晩のディナーはハンバーガーとバイソンの肉だそう。

バイソンの肉なんて食べるの初めてだ。

旅の最後の夜、本来ならテントで水でふやかしただけのラーメンとツナを食べるつもりだった。

まさかロード歩きをしていてトレイルエンジェルに会うとは思ってもいなかった。

たまたまPCTが山火事でクローズして、たまたま選択した道が別のトレイルの近くで、たまたま僕を発見してくれて、たまたま友人がきていて。

やっぱり僕の旅はついてる。

山火事が起きた時は、

『ついてた今までのツケがきた。』

なんて思ってたけど。

単調に旅の終わりへと向かっていくと思っていたが、全くそんなことはなかった。

こっちにはこっちの物語があったよ。

最後の夜にトレイルエンジェルに迎え入れてもらえるとは思っていなかった。

翌朝、彼らにお礼を告げ、旅の終わりへと向かって僕は歩き出した。

なんの変哲もないこの道がカナダまで繋がっている。

4ヶ月間、とてつもない距離をかけて目指してきた場所だ。

それと共にそこにたどり着いてしまえば旅が終わってしまう。

興奮と寂しさが僕の中に入り混じっていた。

『最後は感傷に浸りたいな…』

なんて思い、今までの思い出を振り返りながらゆっくり歩みを進めた。

美化されている部分もあるとは思うが、本当にいい思い出しか頭に浮かんでこない。

それだけ色んな人や感情に囲まれ、幸せな時間を過ごしていたのだと再認識した。

そうこうしていると、小さな建物が目の前に現れた。

“Canada-United States Boundary”

ついにたどり着いた。

たどり着いてしまった。

何か特別な感情が湧いてくるのかと思っていたが、

『あぁ〜、この柵の向こうがカナダなのか〜。』

くらいのものだった。

口では言ってきていたが、ここにたどり着くことが”旅”ではないのだと体感した瞬間だった。

カナダ国境のサインとぼくのバックパック。ハイパーライトマウンテンギアのジャンクション2400というモデルを使っていた。

その後、写真を撮ったりしながら国境付近をうろちょろしていると、車で通りかかったボーダーセキュリティの職員に呼び止められた。

まぁ確かに怪しい。

こんな何もない場所に身一つでいるのだから。

それに、

『メキシコ国境から歩いてきて今ここに着いたんだ〜!』

なんて言われたらなおさら。

パスポートを渡し、入国履歴やビザを確認され、質問攻めにされた後、問題なく解放された。

そりゃなんも悪いことしてないからね。

この柵の向こうはカナダ。ついに旅が終わってしまった。

こうして僕のPCTの旅がついに終わってしまった。

これから感情を整理して、またこの場で振り返っていきたいと思う。

ひとつ自信を持って言えることは、

“これまでの選択、ひとつも間違っていなかった”

ということ。

人に囲まれながらも、”自分は自分”で芯をもって旅をすることが出来たし、充実した毎日だった。

まさに歩き出した時、自分がなりたいと思っていたハイカー像。

なんの後悔もございません。

バカみたいに月並みの言葉ですが…

いい旅でした。

コメント

  1. TAKA より:

    楽しく読ませてもらったよ。最高!!! まだ旅は終わらなそうだね。

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